トリアージ方法を学ぶ
1:災害トリアージとはなんでしょうか?
災害発生時など多数の傷病者が同時に発生し、対応人員や物資などの資源が通常時の規模では対応しきれないような非常事態に陥った場合、傷病者の緊急度や重症度に応じて適切な処置や搬送を行うために傷病者の優先順位を決定すること。語源は選別を意味するフランス語の「triage(トリアージュ)」である。
多数の傷病者が一度に発生する特殊な状況下において、現存する限られた医療資源の中で、まず助かる可能性のある傷病者を救命する必要がある。その結果、助かる見込みのない患者あるいは軽傷の患者よりも処置を施すことで命を救える患者に対する処置を優先するというもので、平時では最大限の労力をもって救命処置され(その結果、救命し社会復帰す)る傷病者も、人材・資材が相対的に著しく不足する状況では、全く処置されない(結果的に死亡する)場合がある
災害時現場で最も重要な3つの要素(3T)は、
トリアージ(Triage)、治療(Treatment)、搬送(Transport)である。
刻々と変わる状況とともに、患者の状態も変化するし、医療資源や搬送条件も変化するため、トリアージは繰り返し行わなければならない。
トリアージの種類
一次トリアージ | START式に代表される瓦礫の下などの現場でのふるい分け |
二次トリアージ | 適切な患者を適切な時間と適切な場所に搬送できるように、 気道、呼吸、循環を確保し、安定化させる現場救護所でのふるい分け |
三次トリアージ | 確定診断や治療の後、または最中に高次医療の現場で行われるふるい分け |
2:一次トリアージ(救出現場にて)
カテゴリー:搬送・救命処置の優先順位はⅠ → Ⅱ → Ⅲとなり、0は搬送・救命処置が原則行われない。
識別色 | カテゴリー (優先順位) | 分類 | 傷病等の状態 |
---|---|---|---|
赤 | Ⅰ.(第1順位) | 最優先治療群 (重傷群) | 生命に関わる重篤な状態で、 直ちに処置を行えば救命が可能 |
黄 | Ⅱ.(第2順位) | 待機治療群 (中等症群) | 多少治療の時間が遅れても生命には 危険がないが処置が必要であり、 場合によって赤に変化する可能性が ある。 (基本的には、バイタルサインが安定) |
緑 | Ⅲ.(第3順位) | 保留群 (軽傷群) | 軽易な傷病で、今すぐの処置や搬送 の必要ない。治療不要も含む。 |
黒 | 0.(第4順位) | 不処置群 (死亡群) | 既に死亡している者,または生命徴候 がなく直ちに処置を行っても救命不可な者 |
一次トリアージの実施方法
具体的な手順の原則
一人で行い(トリアージオフィサー)、気道の確保、外出血の止血
以外の治療は行わない。
1)トリアージカテゴリーを基準にしながら優先順位を決定し、
その結果に基づきトリアージタッグに記入し、適当な切り取り線
で切り取り、当該患者につける
2)トリアージタッグは、原則として、右手首関節部につける。
負傷している場合には、
左手首関節部→ 右足関節部 →左足関節部→首の順でつける。
衣服や靴等にはつけない。
3)トリアージ区分等トリアージタッグ主要記載事項以外の部分につ
いては、事前にできるだけ、記入する。
4)トリアージに要する時間は、傷病者数と症状の程度等により
異なってくるが、おおよそ1人当たり数十秒から数分程度で
終わらせる。
5)トリアージは1回で終わるのではなく、必要に応じ、繰り返し何
度でも実施する。
トリアージ・タッグ
START式一次トリアージ:Simple Triage and Rapid Treatmentの略。
多数の傷病者を少数の救助者が短時間に客観的にトリアージする方法。
外傷初期診療ガイドラインにおけるprimary surveyで用いられるABCDE法に基づいている。
この方式は、クラッシュ症候群や腹膜刺激症状などの病態を無視しており、経過の観察と繰り返し行うトリアージが前提としている。クラッシュ症候群を前提とする場合は、判定の最上位に『2時間以上挟まれていたか?』を加える必要があり、その場合には、赤判定となる。
1)歩けるかのチェック
本人の口頭の答えを信じることなく、
起立させ一人で歩行出来るかどうか確認する。
2)呼吸のチェック
呼吸の有無の後は、6秒間で呼吸数を計測
6秒間に3回/分以上何回あっても、または6秒間に1回未満は、
即、赤。
3)循環系はどうか?のチェック
爪床圧迫法CRT(Capillary refilling time:毛細血管再充満時間)
が2秒以上である場合、即、赤
現在ではCRTから、橈骨動脈触知に変更したSTART変法が主と
して用いられている。
・橈骨動脈を触知できない→赤
・橈骨動脈を触知できる→意識レベルチェックへ
4)意識のチェック
手の離掌握などの簡単な指示に従えるか。
3:二次トリアージ(現場救護所)
4つの内容から評価
1)生理学的評価:ABCDEアプローチ
Airway
Breathing
Circulation
Dysfunction of CNS
Exposure & environmental control (低体温予防)
2)解剖学的評価……以下は第一優先順位とする
頸部・胸部皮下気腫、フレイルチェスト、開放性頭蓋骨骨折、開放性気胸、緊張性気胸、腹部膨隆、
腹壁緊張、骨盤骨折、両側大腿骨折、四肢切断、15%以上の熱傷、気道熱傷、
頭部・頸部・胸部・腹部・鼠径部の穿通性外傷
3)受傷機転……第2優先順位以上とする
体幹部狭圧、四肢の長時間挟圧(クラッシュ症候群)、爆発、高所墜落、有毒ガス
4)災害弱者……第2優先順位とする
CHECT(Child, Handicapped, Elderly, Chronically:慢性疾患, Tourists)
妊婦
基礎疾患(糖尿病、肝硬変、透析、出血性素因、循環器疾患、呼吸器疾患)
トリアージ Case Study
問題1 | 58歳 女性 歩行不能 会話可能 清明 呼吸30 脈拍126 橈骨微弱 血圧70 sPO293 腰部痛を訴える 骨盤に動揺あり 顔面蒼白 |
問題2 | 75歳 男性 歩行不能 痛み刺激で開眼 Ⅱ-20 呼吸40 脈拍130 橈骨微弱 血圧70 sPO2測定できず 頸静脈に怒張あり 右呼吸音減弱 |
問題3 | 23歳 女性 歩行不能 見当識障害なし うなずく 呼吸40 脈拍90 血圧110 sPO299 従命により手を握る 唇と両手指のしびれあり |
解説
問題1 | 一次トリアージとしては、歩行不能のため黄色以上は確実。1分間呼吸数30回で 30回以上のcriteriaに従いこの段階で赤と確定。 橈骨動脈微弱も赤の確定を支持。 2次トリアージとしては、骨盤動揺あり骨盤骨折の可能性あり優先度は非常に高い。 |
問題2 | 一次トリアージとしては、歩行不能のため黄色以上は確実。1分間呼吸数40回で 30回以上であるため、この段階で赤と確定。 橈骨動脈微弱も赤の確定を支持。 2次トリアージとしては、頸静脈怒張あり、右呼吸音減弱のため右緊張性気胸などの 可能性あり優先度は非常に高い。 |
問題3 | 一次トリアージとしては、歩行不能のため黄色以上は確実。 1分間呼吸数40回で30回以上であるため、この段階で赤と確定。 2次トリアージとしては、唇と両手のしびれあり、脳疾患の可能性も否定できず、 優先度は高い。 |
(設問提示 東邦大学救急医学講座 吉原教授よりご提供を賜りました。 解説担当:大森医師会工藤理事)